小説「また、同じ夢を見ていた」の考察と感想

住野よるさんの小説「また、同じ夢を見ていた」は、主人公の小学生の女の子、小柳奈ノ花が「幸せとは何か?」を探し求める物語です。この作品は、家族の大切さだけでなく、自己成長や他者との関わり、そして幸せの多様な形について深く考えさせられる内容となっています。

本記事では、作者のメッセージを解説・考察し抵抗と思います。ネタバレが多量に含まれますので、まだ読んだことがない方はブラウザバックを推奨します。また、あくまで個人の感想程度に読んでいただけますと幸いです。

小説「また、同じ夢を見ていた」の考察と紹介

  • 「また、同じ夢を見ていた」のあらすじ
  • 主要な登場人物とその役割
  • 考察1;幸せの多様性
  • 考察2;自己成長と自己受容
  • 考察3;家族の大切さ

「また、同じ夢を見ていた」あらすじ

奈ノ花は、ある日、草むらで一匹の猫に出会います。この出会いをきっかけに、彼女は様々な過去を持つ女性たちと出会います。例えば、リストカットを繰り返す女子高生の南さん、自分を粗末にしてしまったアバズレさん、そして一人静かに余生を送るおばあさんです。これらの出会いを通じて、奈ノ花は「自分の幸せとは何か?」という答えのない問いの探求をしていきます。

主要な登場人物とその役割

この物語を読んでいくうえで重要なのは主人公である「奈ノ花」です。彼女の幸せを探すために、様々な世界を届け、価値観を提供してくれる登場人物たちがいます。彼女たちは、高校生であったり、風俗嬢であったり、時におばあちゃんであったり。小学生である主人公にとっては、身近なようで遠い存在ばかりです。

この小説を読んで、自分なりに考えていくうえで重要なのは、主に次の3人でしょう。

  • 南さん: リストカットを繰り返す女子高生。過去に両親と仲直りできなかったことを後悔しています。
  • アバズレさん: 自分を粗末にしてしまった女性。人と関わることの大切さを奈ノ花に教えます。
  • おばあさん: 一人静かに余生を送る女性。過去の後悔を抱えながらも、幸せな人生を歩んできました。

考察1;幸せの多様性

物語を通じて、幸せの形は一つではないことが強調されています。奈ノ花が出会う、南さん、アバズレさん、おばあさんは、それぞれ異なる背景や経験を持ち、異なる形の幸せを追求しています。当たり前なことですが、「幸せ」という形がないものに対して、「こうであるべき」という答えもありません。点数もつけることができないものであるため、「何をもって自分が幸せであると定義するのか?」という問いには、非常に多様性があり柔軟性があります。

決して、「○○さんが」や「みんなが」ではなく、常に「私は」という主語を置ける。そんな幸せの在り方こそが、重要なのでしょう。

考察2;自己成長と自己受容

奈ノ花が成長する過程で、自己受容の重要性が描かれています。南さんのように過去の後悔と向き合うことや、アバズレさんのように自分を大切にすることが、大切です。失敗して、後悔することなど、悲しいことに人生では多数あります。その中でも、自分をないがしろにして捨てることなく、愛し守り、自分の嫌な部分ともしっかりと向き合っていくことが重要です。特に、「南さん」からの学びは深く、彼女の出した幸せの定義には一つの真実があるように思います。

すなわち、「自分がここにいていいって、認めてもらうこと」ということ。誰かに認めてもらうには、自分中心で誰のことも思いやり、自分の言動を顧みることができないままではいけないということでした。

考察3;家族の大切さ

この小説の最後では、幸せの定義には「両親がいてくれること」になっています。奈ノ花が最終的に「幸せとは、ここに今、お父さんとお母さんがいてくれることです」と発表するシーンですね。このシーンは、家族の存在が彼女にとって大きな意味を持つことを示しています。家族の愛情や支えが、彼女の成長にとって不可欠であることを、素直に言葉にしています。

現実的に「親に感謝する日」などというのは、そう多くはないでしょう。そして、それを口にする日もなければ、実際に感じ取る日もないのかもしれない。残念ながら世間の親は、奈ノ花の両親のように立派ではないのかもしれない。だが、この世界に生き歩いている以上「自分を見守ってくれている誰か」は存在しており、そんな存在に「気が付いた時には感謝をする」という気持ちは重要だと思う。

小説「また、同じ夢を見ていた」の感想と解説

  • 「また、同じ夢を見ていた」の正体
  • 南さんの正体と、呼び名の理由
  • 「人生とは~」は何の口癖でどんな意味?
  • 「バラの下で」の意味と解説
  • 奈ノ花以外の人物は登場しない?
  • 夢に出てきた猫は何?
  • また、同じ夢をみていたの名言集!
  • 説教臭さが面白い一冊!

「また、同じ夢を見ていた」の正体

作品のタイトルでもある「同じ夢」というのは何だろうか。その答えは、「人の思いを理解できなかった未来の奈ノ花」です。南さんだけに焦点を当ててみれば、「親のとの和解」で、アバズレさんは「クラスメイト」、おばあちゃんは「桐生君」ですね。それぞれの未来で、どのような現象が起こり、何を後悔しているのか。それを、「夢」という形で未来の自分がやさしく諭してくれているのです。つまり、「同じ夢」にある「同じ」は、「人間関係の後悔」とも言えますね。

南さんの正体と、呼び名の理由

南さんの正体は、「母親と仲直りできなかった未来での姿」です。南さんの元にたどり着いた時の奈ノ花は、授業参観当日に出張が入り、母親と喧嘩した状態です。そのまま、家族間に入った亀裂はお互いに歩み寄ることができず、ついには死別してしまいます。その世界を生きた自分が、南さんです。ちなみに、南さんと呼ぶようになったのは、彼女が登場するときには決まって制服を着用しており、その制服には「南」と書かれていたからです。

「人生とは~」は何の口癖でどんな意味?

「人生とは~」というのは、主人公である奈ノ花の口癖です。物語の最中でも時折登場するセリフですね。例えば、「人生とは虫歯のようなものね」、「人生とはかき氷のようなものね」です。深い意味を読み取るのは難しいですが、その時の感情や思考を、人生と何かの比喩で表現することにより、自分の悩みの本質を具現化、具体化しているように見えます。

例えば、「虫歯」という言葉には、人生の中で避けられない痛みや困難などですね。小学生らしく、わかりやすい比喩なのではないでしょうか?あくまで、意味を持たせるのであれば、ですけど。

「バラの下で」の意味と解説

バラの下でというのは、「内密に」という意味があります。登場するのは、南さんの下りです。作中の正式な表現は、次のようになります。

『今でもまだ隣の席に座る彼と私が、このあとどうなったかは、薔薇の下で。』

これは、奈ノ花が南さんに教わった中で、1番素敵で心に残っていることでもあります。大好きだった南さんが書いていた小説の内容を忘れても、教えてもらったことはしっかりと定着していたようですね。バラにはたくさんの意味があり、本数や色でも変わってくるため、面白いですね。

奈ノ花以外の人物は登場しない?

様々な登場人物が「夢」を通して奈ノ花に、未来の後悔を教えてくれます。結局のところ、登場している人物はすべて、奈ノ花なのです。南さんが、母親と決別したまま死別した奈ノ花であるように、アバズレさんも、おばあちゃんも、皆「奈ノ花のありえた未来」でしかない。自分の未来を、まるで別人のように描き、反面教師であり良き教師として描いている作品です。そのため、小学生の同級生や両親を除くと、実は「奈ノ花」の一人寸劇のようにも見えます。

夢に出てきた猫は何?

いつも一緒にいてくれた、猫ですが、実は夢の中にしか登場しないレアキャラクターでした。猫はたびたび作中に登場し印象的なものですが、夢と現実を分けている一つのキャラクターになります。猫が登場するのは決まって夢の中であり、小学生の桐生君の家や、様々な問題が起こった学校には一度も登場しません。

また、夢と現実の境目を教えて得くれる役割も、同時に担っていました。それは、物語の終盤で「ありがとうとサヨナラを合わせたような声で鳴いて」、消えていきました。これは、すべての夢、今ある後悔の可能性がすべて潰えたことを示しています。

また、同じ夢をみていたの名言集!

この小説、地味に名言が多くて個人的には好きでした。主人公である奈ノ花の口癖もそうですが、南さんの幸せの形や、アバズレさんの何気ない一言は、重たく奥深いものがあるように思います。

  • 「(幸せは)自分がここにいていいって、認めてもらえることだ」(南さん)
  • 「物語を読んだ人達の心に新しい世界を作るから作家っていうんでしょ?」(奈ノ花)
  • 「大人は子どもと違って過去を見る生き物だから」(アバズレさん)
  • 「誰も魔法みたいに人の心を分かるなんて出来ないわけだ」「だから、人には考えるっていう力がある」(アバズレさん)
  • 「なんでもいいから、この連続する日々を終わらせたかった」(アバズレさん)
  • 「幸せとは、誰かのことを真剣に考えられるということだ」(アバズレさん)

説教臭さが面白い一冊!

個人的に「また、同じ夢を見ていた」を読んだ感想は、説教臭さが地味に面白い一冊だなと思いました。未来の自分が後悔の無いようにサポートするというのは、よくある物語です。それこそ、使い古された手法ですが、これはSFチックでもファンタジーでもないところが実に面白い。それに、説教臭いことも隠さず、小学生の主人公に「両親がいることが幸せだ」と言い切らせてしまう所がすごいなと思いました。素直に学び感情を表現し、豊かに求める小学生の姿をきれいに書いていました。そして、そんな過去の自分に対して「全力で言葉を向ける大人の自分」という矛盾と、「そうしなければ伝わらない」という現実がわかりやすかったですね。何より、「全力の言葉」だからこそ、僕らのような読者にも突き刺さる言葉が多かったのではないでしょうか?

小説「また、同じ夢を見ていた」の考察と感想の総括!

「また、同じ夢を見ていた」は、幸せの多様性、自己成長、他者との関わり、家族の大切さ、そして過去の後悔と向き合うことの重要性を教えてくれる物語です。これらの教訓を通じて、自分自身の人生について深く考える機会を得られました。気軽に読むにはちょっと読書疲れする一面もあるが、読んでみて後悔はしない一冊でしたね。

読みごたえも十分なため、時間があるときにぜひとも手にしてみてほしい一冊です。

読了本

Posted by とあるオタク