「人間標本|湊かなえ」あらすじと見どころを紹介
今回紹介する読了本は「人間標本/湊かなえ」です。湊かなえ先生といえば、「告白」「少女」などの有名作品を送りだした先生ですね。いつも楽しんで読んでいるのですが、今回は今年発売された「人間標本」のあらすじやネタバレ、考察をしていきたいと思います。
この本をまだ読んでいない方で、ネタバレが嫌だ、書評は嫌だという方はブラウザバック推奨です。それでも構わない人は、一緒にこの本の魅力にとらわれて、沼落ちしていきましょう。
人間標本|湊かなえ あらすじと見どころ
- 人間標本のあらすじとは?
- 人間標本の見どころを一挙紹介
- 湊かなえ-人間標本最初のミスリード完全解説
- 人間標本のラストシーンに関して
人間標本のあらすじとは?ジャンルは?
人間標本は、これまで通りミステリー小説です。この物語は、恐ろしいタイトルの通り美少年を次々に標本にしていく物語です。物語の始まりは、とある手記からスタートします。高名な画家の息子ながら画才に恵まれず、蝶(ちょう)の研究の道に進んだ男が亡父のアトリエに集った5人の画家の卵を前に思ってしまいました。〈美しい姿を永遠のものにしたい〉という願望を。手記の中身は、美少年を蝶に見立てて標本にしたうえ、最後は息子に手をかけた犯罪者の告白だった。
人間標本の見どころを一挙紹介
この作品の見どころは、次の点です。
- 二転三転する物語
- 作りこまれた世界観
- 主人公すら欺くミスリード
- 犯人の擬態と偽装
- えげつなくも奥深い殺人事件
人間標本の見どころは、二転三転していく物語です。特に今回は主人公すら見間違えてしまうという、序盤での裏切りから始まります。父親の手記に息子の論文に関しては、オドロオドロシイ雰囲気を醸し出しながらも、丁寧に描かれていました。何度も繰り返し転換される物語は、読者の感情を揺さぶり、いい感じの読書疲れを提供してくれるでしょう。蝶に魅せられた連続殺人の奥に、いったい犯人のどのような擬態と偽装と執着があったのか。その内容を悟らせず、徐々に明るみにしていく展開は非常に見ものです。
湊かなえ-人間標本最初のミスリード完全解説
昆虫学者という道を選んだ史郎と、芸術家になる道を選んだ留美。大人になっても二人の人生は交わることはなく、寄り添い隣り合うように友人関係を続けていた。しかし、史郎の子供である至を、絵画合宿に参加させることになり、至を含めて6人の子供が集められた。そこは、史郎が住んでいた山の中にある実家で、留美と初めて出会ったところ。この、場所にとても深い意味があり、留美はこの家を購入してまで、維持管理を継続していたのです。その景観に、思わずタイムスリップした錯覚を覚える史郎。過去の父親との交流を思い出した彼は、「それぞれが違う種類の蝶の化身で、背景も蝶の色覚のまま」という思考に縛り付けられました。
その後、史郎は息子である至を含めて6人の子供たちを殺害し、人間標本を作製しました。その後、史郎は自首し警察に出頭します。
人間標本のラストシーンに関して(ネタバレなし)解説
最終章ではそれまでの、さまざまなミスリードの状況を一変させる展開が続きます。物語のラストでは、史郎が死刑判決を受けることになり幕開けです。いきなりの重たい展開ですが、煩悶を続けている史郎のもとに一人の面会者が登場します。この面会者の手により、この物語は思わぬ方向へと帰着していく姿を見せます。その面会者とは、留美の娘である「一之瀬杏奈」でした。
久しぶりに会った彼女の口から、留美の死以降の様々な近状報告を受けていきます。その中では衝撃的な事実が事細かに語られていきます。そう、それは事件の真相と真実であり、どれだけち密に計算された殺人事件であったのか、ということです。この悍ましい事件の帰結は、きれいにまとめられており、これまでの登場人物たちの心情などを丁寧に、わかりやすく記述しています。
人間標本の感想と考察に関して
- 人間標本の考察してみる(ネタバレ注意)
- 感想と書評について(ネタバレ注意)
- 本当に面白い作品なのか?
- 人間標本の登場人物について
- 物語の犯人は?ニアミスはあるのか
人間標本の考察してみる(ネタバレ注意)
人間標本の注意点は、いくつもある場面転換です。特に序章に当たる「人間標本 榊史朗」はすべてがミスリードであり、真実を語っていた。不思議な感覚となるが、ミステリーらしく序章には伏線が張りめぐらされ、発生した事実は正しく事実でした。警察に出頭する前に、SNSに人間標本を晒したり、自首した経緯に関してはそこまでの執筆と比較すると薄い表現で助長されることがないように書かれています。これ自体に違和感を感じたのですが、その後の「SNSより抜粋」や「夏休み自由研究 『人間標本』 2年B組13番 榊至」では、現代の問題に焦点を当てつつも、問題の核心をついていきます。過去回想も含めて、至視点で書かれた手記をもとに様々な最新情報が届けられるのです。この至の手記の内容は、実は史郎が描いた「人間標本」の内容と同じなんです。一之瀬留美の後進教育合宿に参加した少年五人を至が殺し、標本にしたという内容です。ここで異なるのは、至の場合にはその過程を描くことはないということ。事実と至の心情のみが記載されており、「史郎の手記は何のためにどのような理由で作成されたのか?」という謎を想起させるものです。そして、その疑問点はこの章の内容を読めば小さな差異に気が付きつつも、次章へ持ち込まれることになります。
感想と書評について(ネタバレ注意)
書評的な感想としては、「どんでん返し」「ミスリード」の山であったということ。「夏休み自由研究 『人間標本』 2年B組13番 榊至」と「榊史郎」の章では、明らかに対比するように描かれています。それでいて、至の章では自由研究ということがあり「観察日記」のような観点で描かれる。一方で、榊史郎の場合は「論文」ということもあり、「事実が事細かに、方法まで掘り下げて記述されている」という違いがあります。ミスリードにもこの差異は生かされており、「独房にて」という章での独白すらもミスリードです。人間不信になりそうな感じですが、ち密に計算された物語と各登場人物の設定が、その違和感をきれいに覆いつくしています。これは、小説で見なければわからない面白さ、ロジックがあります。
本当に面白い作品なのか?
個人的な見解でいえば、面白い作品です。ミスリードに注意して要所要所各登場人物に焦点を当てていくと、途中でも物語の真相が見えてきます。ですが、ちゃんと核心部分については覆い隠されており、最後の核心を明かすシーンでは「面白い」と太鼓判を押せる内容でした。誰もがお互いを庇いあい、何か大切なものを得て守るために、悲惨で猟奇的で懐疑的でおぞましい事件が発生しました。蝶と人間を比較した点も、標本という視点も非常に面白いものでした。
人間標本の登場人物について
人間標本の登場人物は、主に4人に絞られています。4人の感情や行動に焦点を当てつつ、手記のような回想を使用することで、物語を面白くしています。
- 榊 史郎;至の父親にして、留美の友人である。昆虫学者として活動し、「人間標本」を書いた
- 榊 至;史郎の息子にして、杏奈の知人。夏休みの自由研究「人間標本」を書いた
- 一之瀬留美;芸術家にして、一連の事件に裏側から関与している人物。人間標本を作るための舞台を用意した。
- 一ノ瀬杏奈;人間標本を作った張本人。留美の実の娘であり、母と同じく芸術家の道を歩む
物語の犯人は?ニアミスはあるのか
一連の騒動を総括すると、真の犯人は「一之瀬杏奈」で落ち着きます。犯人は杏奈ですぐが、実の計画犯はその母親である留美です。犯人を定義すると、一之瀬母子となります。実行犯は杏奈であり、最後に面会室に訪れたのも杏奈でした。様々な思想が入り乱れ、各々の思惑が錯綜するなか、唯一無事だったのは犯人である杏奈のみでした。
一連の事件の本当の姿
今回の事件の犯人に関して判明したところで、一連の事件の真相を明らかにしていきます。考察の個所などでも紹介しており、いくつか不審なところがありました。もちろん、論文も夏休みの自由研究も実際に、本人によって作られたものです。そこから類推し、最後まで読んでみたところ、次のような真相が浮かび上がります。
一之瀬留美が計画「人間標本」の計画を行い、娘の一之瀬杏奈が実行しました。
標本作成作業を偶然にも目撃したのが、至です。至は、罪を庇うために〈夏休み自由研究「人間標本」〉を記しました。
だが、その事実を知った実父親は息子の罪の一切合切を背負うことを決意しました。そうして生み出されたのが、「人間標本 榊史郎」です。自首も行い、自由研究が表に出ても問題ないように、SNSに公表する行動まで起こしました。
「人間標本|湊かなえ」あらすじと見どころを紹介を総括!
今回紹介した本は「人間標本」です。きっかけは留美の忘れられない記憶、思い付きでの犯行でした。犯人である杏奈だけが無事であるという皮肉めいた結末には、賛否があるところも事実です。本作の感想を調べてみたり、意見交流をしたりしても同様でした。あらすじを見るだけでは、すべてを語れないところは、相変わらずの湊かなえ節だったなぁという感じです。
今回はあらすじや見どころを紹介しました。ネタバレもある、あらすじに見どころ紹介だったのでしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは、良き読書ライフ、オタクライフをお過ごしください。
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